熊本地震から10年を迎えるにあたり ~創造的復興の先へ~
平成28年(2016年)4月14日、そして16日。私たちの愛する郷土・熊本を襲った最大震度7の激震から、間もなく10年という大きな節目を迎えようとしています。はじめに、この震災により犠牲となられた方々に深く哀悼の意を表しますとともに、今なお困難な状況にある方、大切な方を亡くされたご遺族の皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
あの日からの10年は、私たちにとって決して平坦な道のりではありませんでした。しかし、崩落した阿蘇大橋の再建、熊本城の天守閣修復、そして地域のコミュニティが再生していく姿は、私たちに「人間の強さ」と「支え合いの尊さ」を教えてくれました。全国、そして世界中から寄せられた温かいご支援に、改めて深く感謝を申し上げます。
震災直後、私たち熊本県行政書士会は、壊滅的な被害を受けた自治体や避難所へと向かいました。混乱の中で「何をどうすればいいのか分からない」と途方に暮れる住民の方々の声に耳を傾け、罹災証明書の自治体窓口での受付や代理申請、事業再建のための補助金申請など、生活再建に不可欠な「手続き」の面から伴走してまいりました。
行政書士は「身近な街の法律家」です。法律の条文を読み解くだけではなく、その裏側にある一人ひとりの人生、苦悩、そして希望に触れてきました。これらの経験は、私たち行政書士にとっても、専門職としての存在意義を深く問い直す貴重な経験となりました。
この10年で、熊本は「創造的復興」という旗印のもと、目覚ましい進化を遂げました。世界的な半導体企業の進出や交通インフラの整備により、県内の経済地図は大きく塗り替えられようとしています。しかし、華やかな発展の影で、新たな課題も浮き彫りになっています。被災を機に住環境が変わり、孤立を深める高齢者の方々への支援や、地域の安全を脅かす課題になりつつある空き家問題への対応。そして利便性を高めるデジタル化が進む一方で、制度から取り残される方々へのサポートなど。これらは、これからの熊本が10年、20年先も活力を維持するための新しい時代の課題です。私たち行政書士は、震災対応で培った「現場力」を活かし、これら複雑な社会課題の解決において、行政と県民をつなぐ「きずな」としての役割をさらに強化してまいる所存です。
「天災は忘れた頃にやってくる」という言葉がありますが、私たちはこの10年、決してあの日々を忘れることはありませんでした。熊本地震の後も、令和2年7月豪雨をはじめとする自然災害が頻発しています。熊本県行政書士会は、発災後の支援はもちろんのこと、これからは「予防法務による防災」も提唱してまいります。
【予防法務による防災例】
遺言・相続の事前準備により、いざという時の権利関係が明確であれば、復旧は格段に早まります。
事業継続計画(BCP)の策定支援により、中小企業の皆様が災害時でも雇用を守り、事業を継続できるよう伴走します。
成年後見制度の普及により、誰一人取り残さない防災のため、判断能力が不十分な方々の権利を守ります。
10年という月日は、ある人にとっては「もう10年」、またある人にとっては「まだ10年」かもしれません。記憶の風化を恐れる声もありますが、私たちは、あの時交わした握手のぬくもり、涙ながらに聞いた「ありがとう」の言葉を、永遠に忘れることはありません。
熊本県行政書士会は、これからも県民の皆様の最も身近な相談相手として、あり続けます。行政書士法に定められた業務をとおして、作成する書類の一枚一枚に心を込め、手続きの先にある「安心」と「笑顔」を守るために、全力を尽くします。
火の国の誇りを胸に、そして震災の教訓を未来への力に変えて。私たちは、皆さまと共に、より強く、より優しい熊本を築いていくことをここに誓います。共に、次の一歩を踏み出しましょう。
熊本県行政書士会 会長 櫻田直己